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介護百人一首 1

ベッドから 紙の飛行機 飛んでくる
おどけた夫に安どする朝




脳の病気で体の自由が奪われた夫。
夫婦とも突如入り込んだ難しい状況にパニックになったという。
そんなある朝、ベッドから夫が飛ばした新聞広告。
冗談も言わない夫がいたずらっ子のように飛ばした紙切れが
妻には夫の生きる希望を示す紙飛行機に見えたという。

脳の病気。難しい状況。
打開するための手術もいわば「賭け」。
絶望的にも見えるなかで、紙飛行機を飛ばした気持ち。
「配偶者ですから倒れられてはかなわない」。
そっけないようで、これまで連れ添ってきた感謝の気持ちが滲む言葉。
また、夫にこういう気持ちを抱かせたのは、
妻とこれまで過ごしてきた時間の尊さゆえなのだろう。

夫も妻も泣き明かした日々があった。
衝突することも、もちろんあっただろう。
そんな中で互いを思う気持ちが、
心を通わせ合い、日々の充実に繋げていく。
素敵な、夫婦だ。

孫二人 足腰萎えた 吾の足
息を吹きかけ「痛いのとんでけ」


これは写真が添えられていた。

ソファに座るおばあちゃんの左右の膝に孫二人。
筋肉痛が酷くて歩くこともままならないおばあちゃんの痛い膝に
息をフーッと吹きかけ「痛いのとんでけ」。

紹介された写真は4年前のもの。
その後は息を吹きかけてくれた孫と
ボール蹴りが出来るほどに回復したそうだ。

なんとも温かい気持ちになるじゃないか。
その温かさは代々伝え、伝わってきたものなのだろう。

玄関で 一人で靴が 履けました
ほうびは妻の優しい笑顔


脳梗塞による左半身麻痺。日常生活には介助がいる日々だ。
ままならぬ体、介助を求めなければならない気兼ね。
でも、そんな中でひとつ出来ることが増えることの喜びはいかばかりか。
世話をかけている奥さんの笑顔は、たまらなかったんだろうなあ。

電話インタビュー。詠み人の声の明るさはどうだ。
生粋の巨人ファンだという彼の語るジャイアンツの生き生きとしたこと。
ひとつ出来ることが増える。それがこれほど生きる力に繫がるのだ。

娘のくれる ファックスドリル 千枚目
50÷2に夫は悩みて


認知症になった夫。
その進行を遅らせようと娘がファックスで毎日ドリルを送ってくる。
凄いことだ。しかも送り続けて千枚に。
50÷2の答えが出なくて苦しんでいる様は深刻かもしれないが、
その様子を見守る周囲の温かさが伝わってくる。

こわれても 分からなくても いつまでも
あなたはやはり私の母さん


お母さんが認知症。
程度は日々進み「こわれて」「分からなく」なってくるのを認めるのは辛いはず。
「こわれても」と冒頭に来るのはショッキングですらある。
それでも、たったひとりの、私の母さん。
親子の繫がりはかくも濃いものなのか。

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介護を要する状況に置かれてしまった。
それは、介護など必要なかったときと比べれば、当然辛かろう。
過酷な日々が、まさに日常となっているはずである。
今日紹介された「介護百人一首」にしても変わりあるまい。

それでも詠まれた歌は暗さや悲壮感にばかり包まれているわけではない。
どこかにやっぱり温かい、人の温もりが伝わってくる。

もちろんここまでに達する道のりは険しいものがあったはず。
それでも人の温かい気持ちは、苦しい日々を乗り越える力を生む。

人って、凄いな。

by urutimai1970 | 2010-01-04 20:30 | 福祉NW&きらっと